離職防止

介護離職を防ぐには|企業がとるべき対策を体系的に解説

監修 東急ウェルネス株式会社 介護離職防止サポート 責任者 A.T.

仕事と介護を両立しながら働き続ける従業員のイメージ

介護を理由に仕事を辞める人は、年間約10.6万人にのぼります※3。しかも辞めているのは40〜50代、多くの企業で中核を担う層です。ただし、離職理由の上位2つは「介護そのものの負担」ではなく、制度が使いづらいこと介護保険サービスの利用方法がわからないことでした※5。つまり介護離職の原因の多くは、企業側の手当てで取り除けるということです。本記事では、介護離職が起きる原因を整理したうえで、人事担当者が取り組むべき対策を体系的にご説明します。

介護離職の現状|すでに年間約10.6万人が辞めている

介護離職とは、家族の介護を理由に仕事を辞めることをいいます。「これから起きる問題」と捉えられがちですが、実態はすでに大きな規模に達しています。

家族の介護をしている人は653万人

ふだん家族の介護をしている人は653.4万人です※2。就業者に限らない数字ですが、働きながら介護をしている人がこの中に相当数含まれます。そして介護・看護を理由に前職を離職した人は1年間で10.6万人にのぼります※3

日本の高齢化率は2024年時点で29.3%、2050年には37.1%まで上昇する見通しです※1。従業員が家族の介護に直面する確率は、今後さらに高まっていきます。

そして辞めた人の数より、辞めずに働き続けている介護者の数のほうがはるかに多いという点が見落とされがちです。働きながら介護を担う人をビジネスケアラーと呼びます。経済産業省の推計では2030年に約318万人、労働力人口の21人に1人に達する見込みで、同じ推計の介護離職者11万人と比べると、離職1人の背後に約29人が組織の中にいることになります。

辞めているのは40〜50代の中核人材

介護離職で企業が受ける打撃が大きいのは、失う人材の層に理由があります。離職理由に「介護・看護」が占める割合は女性55〜59歳で6.7%、男性45〜49歳で6.2%と、全年代平均の1.3%を大きく上回ります※4

この年代は、実務経験が長く、後進の育成や意思決定を担っていることが多い層です。採用や教育で短期間に埋め合わせることが難しく、1人の離職が組織に与える影響は人数以上に大きくなります

押さえておきたい構造:育児と違い、介護は企業側が予兆を掴みにくいという特徴があります。妊娠・出産は本人からの申出があって初めて支援が始まりますが、介護は「申し出ないまま抱え込み、限界に達してから退職を申し出る」という経路をたどりがちです。人事が把握できた時点では、すでに手遅れになっていることが少なくありません。

なぜ介護離職は起きるのか|原因は離職理由の上位2つにある

ここが介護離職対策の出発点です。厚生労働省の調査によると、「仕事を続けたかった」にもかかわらず離職に至った人が挙げた理由の上位2つは、次のとおりでした※5

1

勤務先の両立支援制度の問題や、介護休業等を取得しづらい雰囲気等があった 43.4%

制度が整っていない、あるいは制度はあっても申し出られる空気感がない、という理由です。企業内部の問題であり、最も直接的に手を打てる領域です。

2

介護保険サービス等が利用できなかった・利用方法がわからなかった 30.2%

介護保険サービスの利用方法がわからないまま、ご自身だけで介護を担おうとして、負担が大きくなってしまうケースです。情報提供によって改善できる領域です。

ここが大切なポイントです。離職理由の上位2つは、いずれも「介護そのものが大変だから辞めた」ではありません。制度と情報の問題であり、どちらも企業の取り組みで改善できます。逆にいえば、これらに手を打たないまま「介護は個人の事情だから」と扱っている限り、防げたはずの離職が起こり続けることになります。

育児支援の延長では防げない|介護支援の6つの違い

両立支援というと育児支援を思い浮かべがちですが、育児と介護では性質が大きく異なり、同じ仕組みだけでは十分に対応できないことがあります

育児 介護
支援の目的 社員が子育てに積極的に関与できるように支援する 両立を社員自身がマネジメントする準備を支援する
発生の予測 予測可能(妊娠・出産) 突発的(脳卒中、転倒、認知症等)
終わりの時期 確定的な有期 予見困難(数か月〜十数年続く)
負担の変化 軽減していく 重度化していく
対象となる年代 20代〜40代 若手が多い 40代〜60代 ベテラン層・管理職が多い
社内のロールモデル 先輩の父親・母親がいてイメージしやすい ロールモデルがわからず、孤立化しやすい

特に大切なのが、支援の目的の違いです。育児支援は子育てに関わる時間を支えるための支援ですが、介護支援は仕事と介護を無理なく両立できる体制を整えるための支援です。従業員自身が介護を担うことを前提に休みを増やす設計にすると、かえって仕事から離れる期間が長くなり、両立が難しくなってしまうこともあります。

設計上の注意:介護休業は「自分が介護をするための休み」ではなく、介護と仕事を両立できる体制を整えるための準備期間です。通算93日という日数は介護そのものを担うには短く、この期間に介護サービスの利用体制を構築することが本来の趣旨です。制度の位置づけを人事側が誤解していると、従業員への案内も誤った方向になります。

制度ごとの詳しい違いは介護休暇と介護休業の違いで解説しています。

企業に課された法的義務|2025年4月改正の概要

2025年4月1日施行の育児・介護休業法改正により、介護分野で事業主に新たに3つの措置が義務づけられました。介護離職防止は「望ましい取り組み」から法的な義務へと位置づけが変わっています。

  • 個別の周知・意向確認:従業員から介護に直面した旨の申出があった際に、制度の内容を個別に伝え、利用の意向を確認します。
  • 早期の情報提供(40歳時点):介護保険の第2号被保険者となる40歳のタイミングで、介護に関する制度情報をあらかじめ提供します。
  • 雇用環境の整備:研修・相談窓口・事例提供・方針周知の4つの選択肢から、いずれか1つ以上を実施します。

あわせて、介護休暇について労使協定で「継続雇用期間6か月未満の労働者」を除外する仕組みが廃止されました。また、要介護状態の家族を介護する労働者がテレワークを選択できるようにする措置が、努力義務となっています。

各措置の具体的な進め方は育児・介護休業法改正への実務対応で解説しています。40歳時点の情報提供については40歳到達時の介護情報提供義務をご覧ください。

介護離職を防ぐ5つの対策

介護離職の防止は、次の5つの対策の組み合わせで進めます。順番に意味があります。実態を把握しないまま制度だけを整えても、使われないまま終わるためです。

1

実態を把握する

介護をしている従業員は、会社に申し出ていないことがほとんどです。まず匿名のアンケートで人数と求められている支援を把握します。ここが数字で見えると、施策の優先順位が定まります。
従業員アンケートの設計と質問例

2

制度を整備し、就業規則に落とす

法定の制度が就業規則に正しく反映されているかを確認します。2025年4月改正に対応していない規定が残っている企業は少なくありません。
就業規則の介護休業規定の見直し

3

情報を届ける

制度の一覧を配るだけでなく、介護保険の使い方そのものを伝えることが要点です。直面してからでは調べる余裕がないため、40歳時点など早い段階での提供が効果的です。
介護保険サービスを使うまでの流れ親の介護が始まったら

4

相談できる場所をつくる

多くの従業員が最初に相談するのは、人事ではなく直属の上司です。管理職の初動によってその後の展開が変わります。あわせて、上司に言いづらい方のための窓口も用意します。
管理職がとるべき初動対応

5

経済的な不安を取り除く

「介護休業は無給だから」と考えて退職を選ぶ従業員は少なくありませんが、実際には介護休業給付金が支給されます。企業側も公的な助成金を活用できます。
介護休業給付金の申請手続き両立支援等助成金

着手しやすいのは③と④です。どちらも法改正で求められている措置(雇用環境の整備・40歳時点の情報提供)と重なるため、義務対応と離職防止を同時に進められます

何から始めるか|3ステップの進め方

5つの対策を一度に始める必要はありません。次の順序で進めると、社内の合意も取りやすくなります。

STEP 1/1〜3か月目

把握する

従業員アンケートで実態を掴み、あわせて就業規則が改正内容に対応しているかを点検します。この段階の成果物は「自社に何人いるか」という数字です。

STEP 2/3〜6か月目

整える

規程の不備を修正し、管理職向け介護研修企業の介護相談窓口を用意します。40歳到達者への情報提供の運用もここで固め、義務対応を完了させます。

STEP 3/継続

定着させる

従業員向けのセミナーを定期的に実施し、制度の存在と使い方を繰り返し伝えます。対象者の分け方とテーマの決め方は社内向け介護セミナーの企画をご覧ください。年1回アンケートを取り直し、変化を追跡します。

測定

何を見るか

離職者数は件数が少なく短期の測定には向きません。かわりに制度の認知度相談件数を追います。相談件数の増加は、抱え込みが減ったことを意味します。

よくある4つの失敗

取り組みが空回りする企業には、共通したパターンがあります。

  • 制度を作って終わりにする:制度の存在を知っていても「前例がない」「言いづらい」という理由で申し出られません。周知は一度では届きません。
  • 管理職を飛ばして人事だけで進める:従業員が最初に相談するのは直属の上司です。ここで止まると、支援につながる経路が切れてしまいます。
  • 「介護をする人を支える」設計にしてしまう:目指すのは、介護サービスを使いながら働き続けられる状態です。休業はそのための準備期間にあたります。
  • 周知の対象を40代以降に限る:30代で親の介護に直面する方も、祖父母の介護を担う若手もいます。40歳時点の情報提供は法定の下限です。

経営層に伝えるときのポイント

介護離職対策は、予算と工数の確保で止まることがあります。経営層に説明する際は、自社の数字から入ると話が進みやすくなります。押さえておきたいのは次の3点です。

  • 全国統計だけで終わらせない:「よその話」ではなく「自社にすでにいる人の話」になった時点で、議論の質が変わります。対策の1番目に実態把握を置いているのは、このためです。
  • 影響は離職だけではないと示す:辞めずに働き続けている従業員の生産性への影響のほうが、金額としては大きいと試算されています。
  • 法対応と切り離さない:2025年4月の法改正により、従業員への情報提供と雇用環境の整備は、すでに事業主に求められる取り組みとなっています。

影響額の見積もり方や、経営層向けの説明の文例は介護離職のコストを試算するでご紹介しています。

よくあるご質問

介護離職防止は何から始めればよいですか?

従業員の実態把握から始めてください。介護をしている従業員は会社に申し出ていないことが多く、人事が把握している人数と実際の人数には大きな開きがあります。匿名のアンケートで「現在介護をしている」「5年以内に直面しそう」の人数を掴むと、その後の制度設計や周知の優先順位が決められます。

制度は整備済みですが利用されません。なぜですか?

制度が「ある」ことと「使える」ことは別だからです。厚生労働省の調査では、離職理由の43.4%が勤務先の両立支援制度の問題や介護休業等を取得しづらい雰囲気等でした。制度の存在を知っていても、前例がない、上司に言いづらい、査定に響きそうだという理由で申し出られないケースが多くみられます。管理職への研修と、人事以外に相談できる窓口の設置が有効です。

中小企業でもできる介護離職対策はありますか?

あります。費用をかけずに効果が出やすいのは、40歳到達時の情報提供と管理職への研修の2つです。いずれも法改正で求められている措置と重なるため、義務対応と離職防止を同時に進められます。また、両立支援等助成金の介護離職防止支援コースなど、中小企業向けの支援制度も用意されています。

出典

※本記事は2026年8月時点の情報に基づいて作成しています。制度の詳細や個別の適用については、所轄の労働局またはお近くの社会保険労務士等の専門家にご確認ください。統計の数値は各調査の公表時点のものです。

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