離職防止

管理職向け介護研修|カリキュラムの組み方と押さえる4項目

監修 東急ウェルネス株式会社 介護離職防止サポート 責任者 A.T.

介護と仕事の両立支援について研修を受ける管理職

部下から介護の相談を受けたとき、最初に返した一言でその後が決まります。「大変だね、無理しないで」で終えると、次に相談が来るのは退職の意思を固めたあとになります。管理職向けの介護研修は、制度を暗記してもらう場ではなく、この最初の面談で何を聞き、何を判断しないかを揃える場です。本記事では、カリキュラムの骨格となる4項目、60分・90分のプログラム例、一般社員向けセミナーとの違い、演習の入れ方、実施後にやることを整理します。

なぜ管理職に研修が必要か|初動が離職を左右する

介護は、育児と違っていつ始まるか予告がなく、いつ終わるかも見えません。従業員が最初に打ち明ける相手は、人事部門ではなく直属の上司であることがほとんどです。つまり制度に接続するかどうかの分岐点は、管理職の手元にあります

研修がないときに起きること

  • 受け止めて終わる。「大変だね」で会話が閉じ、制度の案内も相談窓口の紹介も起きません。本人は「会社は何もしてくれない」と受け取ります
  • 善意で先回りする。「負担をかけないように」と担当業務を外す判断が、本人には評価の低下と映ります。両立支援制度の利用を理由とする不利益取扱いは禁止されており※1、意図がどうであれ問題になり得ます
  • 制度を誤って案内する。「介護休暇は年5日」「介護休業は93日」といった数字を管理職が誤って伝えると、本人はその前提で予定を組みます
  • 抱え込む。管理職が自分で解決しようとして人事へ上げず、状況が悪化してから共有されます

初動そのものの手順は部下から介護の相談を受けたら|管理職がとるべき初動対応で解説しています。本記事は、それを研修としてどう組み立てるかを扱います。

法令上の位置づけ|研修とハラスメント防止措置

2025年4月1日施行の育児・介護休業法改正により、事業主には介護離職を防止するための雇用環境の整備が義務づけられ、その方法のひとつとして研修の実施が示されています※1。研修は4つの措置のうちいずれか1つを講じればよいとされていますが、対象を管理職に絞った研修も、この措置に含まれます

あわせて事業主には、介護休業などの制度の利用に関する言動により就業環境が害されることのないよう、ハラスメントを防止するための措置が義務づけられています※1。この措置には方針の明確化と周知・啓発が含まれており、管理職研修はその実施手段として位置づけられます。

押さえておきたい考え方:管理職研修は「雇用環境の整備」と「ハラスメント防止措置」の両方に効く数少ない打ち手です。稟議では、福利厚生ではなく法令対応として整理するほうが通りやすくなります。ケアハラスメントの具体的な言動例はケアハラ(ケアハラスメント)とは|言動の具体例と防止措置4つをご覧ください。

カリキュラムの骨格|押さえる4項目

管理職研修の内容は、次の4項目に収めると過不足がありません。制度の網羅は目的ではありません。覚えて帰れる量に絞ることのほうが重要です。

1

制度は「3つの数字」だけ

介護休業は対象家族1人につき通算93日、3回まで分割。介護休暇は年5日(対象家族が2人以上なら10日)。介護休業給付金は原則67%。管理職に必要なのはここまでで、詳細の判断は人事が担います。「詳しくは人事に確認する」と言えることを到達点にします。制度の違いは介護休暇と介護休業の違い【比較表】給与・給付金・日数で整理しています。

2

最初の面談で聞くこと・聞かないこと

聞くのは「いつまで続きそうか」「今いちばん困っている場面はいつか」「会社に何をしてほしいか」。聞かないのは病名、要介護度、家族関係の詳細です。制度の適用判断に必要な情報は人事が確認するため、上司が踏み込む必要はありません。この線引きが研修の中心になります。

3

やらないほうがよい対応

その場で異動や担当変更を決める、退職を前提とした話をする、他の社員に共有する、「前例がない」と答える。いずれも善意から出やすい対応です。禁止事項として並べるより、それをすると相手にどう伝わるかを示すほうが定着します。

4

つなぐ先と、つなぐタイミング

人事部門、社内の相談窓口、産業医、外部の介護相談窓口。管理職が持つべきなのは知識ではなく連絡先です。「その日のうちに人事へ共有する」「本人の同意を得てから窓口を案内する」といった手順まで決めておきます。窓口の設計は企業の介護相談窓口|設置の要件と運用・外部委託の判断で解説しています。

時間配分とプログラム例|60分と90分

研修の時間は、演習を入れるかどうかで決まります。60分では知識の共有まで、90分あればロールプレイまで入ります。

60分(知識共有型) 90分(演習型)
導入 10分/介護離職の現状と自社の状況 10分/介護離職の現状と自社の状況
制度 15分/3つの数字と申出の流れ 10分/3つの数字に絞る
初動対応 20分/聞くこと・聞かないこと 20分/聞くこと・聞かないこと
演習 なし 35分/ケース検討とロールプレイ
つなぎ先 10分/窓口と手順の確認 10分/窓口と手順の確認
質疑 5分 5分
向いている場面 全管理職へ一巡させたい/オンライン開催 対応品質を上げたい/集合開催

実務上の注意:制度の説明に時間を割きすぎると、初動対応と演習が削られます。制度は資料に載せて配り、研修の時間は「対応」に使ってください。管理職が制度を正確に暗記していなくても、人事につなげれば実務は回ります。逆に、初動の一言は誰も代われません。

一般社員向けセミナーとの違い

同じ介護をテーマにしていても、管理職向けと一般社員向けでは立っている位置が違います。内容を使い回すと、どちらにも届かない回になります。

一般社員向け

自分が当事者になったとき

介護保険の使い方、地域包括支援センターへの相談、会社の制度と相談先。「自分の親に何かあったら」という視点で構成します。企画の進め方は社内向け介護セミナーの企画|対象者別のテーマと進め方をご覧ください。

管理職向け

部下が当事者になったとき

相談の受け方、聞く範囲の線引き、不利益取扱いにあたる対応、人事への引き継ぎ。「部下から打ち明けられたら」という視点で構成します。

両方に入れる

介護は準備できるという前提

要介護認定は申請から結果まで原則30日程度かかること※2など、時間がかかる手続きがあるという認識は共通して必要です。

順序

管理職を先に行う

一般社員向けを先に行うと、相談が増えたときに受け手が整っていない状態になります。受け止める側から整えるのが順序として安全です。

演習の入れ方|ケースで手を動かす

初動対応は、聞くだけでは身につきません。短いケースを配り、「最初の一言」を実際に書いてもらうのが最も手軽で効果があります。

ケースの作り方

  • 判断に迷う設定にする。「介護休業を取りたい」と明言された場面は易しすぎます。「最近遅刻が増えた部下から、実は親の物忘れがひどくてと打ち明けられた」のように、制度に乗る前の段階を扱います
  • 自社の業務実態に寄せる。交代勤務がある、拠点が分かれている、少人数の部署がある。自社で実際に起きうる制約を入れると、議論が具体的になります
  • 正解を1つに決めない。目的は模範解答の暗記ではなく、聞いてよい範囲と、その場で決めてはいけないことの感覚を揃えることです
  • 実在の従業員を題材にしない。参加者が特定できる設定は避けてください。研修の場で個人が話題になると、以後その職場では誰も介護の話をしなくなります

ロールプレイは3人一組で

上司役・部下役・観察役の3人で行い、観察役が「聞きすぎた質問」と「言えていなかった一言」を指摘します。上司役だけでは自分の踏み込みすぎに気づけません。1ケース10分、役割を交代して2巡すれば30分ほどで収まります。

実施後にやること

研修は実施した時点では終わりません。次の3つを実施後1か月以内に置いてください。

1

1枚のカードを配る

研修資料は読み返されません。聞くこと・聞かないこと・つなぎ先だけを1枚にまとめ、手元に置ける形で配ります。相談は研修の翌週に来るとは限らず、半年後に来ます。

2

人事への連絡経路を確認する

「介護の相談を受けたら誰に、どの手段で共有するか」を管理職が答えられる状態にします。研修で決めた手順が実際に使える経路になっているかを、人事側でも確認してください。

3

新任管理職への実施を仕組みにする

一度の全体研修だけでは、翌年の新任管理職に届きません。新任研修の一項目として組み込むと、毎年の実施が仕組みで回ります。

研修・窓口・制度整備を含めた全体の組み立ては介護離職を防ぐには|企業がとるべき対策を体系的に解説で、研修の実施に使える助成金は両立支援等助成金「介護離職防止支援コース」でご確認いただけます。

管理職向け 初動対応カード 部下から介護の相談を受けたら 相談を受けた管理職が、その場で開いて使うA4両面のカードです。4ステップ、やってはいけない対応、かけるべき言葉を収めています(別タブで開きます)。 カードを開く

よくあるご質問

管理職向けの介護研修は、どのくらいの頻度で行うべきですか?

全管理職を対象とした研修を年1回行い、あわせて新任管理職研修の一項目として組み込む形をおすすめします。介護の相談は研修の直後に来るとは限らず、半年後や1年後に来ます。年1回の実施で認識を更新しつつ、手元に残る1枚のカードを配ることで、実際に相談を受けたときに参照できる状態になります。新任研修に組み込んでおけば、毎年の実施が仕組みとして回ります。

管理職はどこまで制度を覚えておく必要がありますか?

介護休業は対象家族1人につき通算93日で3回まで分割できること、介護休暇は年5日(対象家族が2人以上なら10日)であること、介護休業給付金は原則67%であること。この3点で足ります。適用の可否や手続きの判断は人事部門が担うため、管理職に必要なのは「詳しくは人事に確認する」と言えることと、その日のうちに人事へつなぐ手順を知っていることです。制度の網羅を求めると、初動対応に割く時間がなくなります。

一般社員向けのセミナーと管理職向けの研修は、どちらを先に行うべきですか?

管理職向けを先に行うことをおすすめします。一般社員向けを先に実施すると、介護について話しやすい空気が生まれた結果として相談が増える一方で、受け止める側の管理職の準備が整っていない状態になります。最初の相談で「大変だね」で終わってしまうと、その従業員が次に相談するのは退職の意思を固めたあとになりがちです。受け止める側から整えるほうが、全体として安全な順序です。

出典

※本記事は2026年8月時点の情報に基づいて作成しています。制度の詳細や個別の適用については、所轄の労働局またはお近くの社会保険労務士等の専門家にご確認ください。

現場を知る講師が担当します

管理職向け研修・従業員向け介護セミナー

東急ウェルネスでは、在宅介護・施設介護・医療施設の現場を経験したケアマネジャーが講師を務めます。60分・90分のプログラム設計、自社の業務実態に合わせたケース作成、ロールプレイの進行までご相談いただけます。研修後の相談窓口の設置や、一般社員向けセミナーとの組み合わせにも対応しています。

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