ケアハラ(ケアハラスメント)とは|言動の具体例と防止措置4つ
監修 東急ウェルネス株式会社 介護離職防止サポート 責任者 A.T.
ケアハラスメント(ケアハラ)とは、介護休業や介護休暇など両立支援制度の利用に関する言動により、働く人の就業環境が害されることをいいます。介護離職の理由の第1位が「勤務先の両立支援制度の問題や介護休業等を取得しづらい雰囲気等があった」(43.4%)である以上※1、これは制度整備と並ぶ中核の課題です。本記事では、混同されやすい「不利益取扱いの禁止」との違いを整理したうえで、企業が講ずべき措置と、管理職が言いがちなNG対応をご説明します。
ケアハラスメントとは
ケアハラスメントは法律上の用語ではありませんが、一般に介護に関する制度の利用等をめぐる職場の言動によって就業環境が害されることを指して用いられます。育児・介護休業法では、事業主に対し、職場における育児休業等に関する言動により労働者の就業環境が害されることのないよう、相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じることが義務づけられています※2。介護休業・介護休暇等の利用に関する言動もこれに含まれます。
介護分野で問題になるのは、主に制度等の利用への嫌がらせです。制度を使おうとしたとき、あるいは使ったことに対して、上司や同僚から不快な言動を受けることで、結果として制度が使えなくなる状態を指します。
介護離職との関係が直接的です。厚生労働省の調査では、「仕事は続けたかった」にもかかわらず離職した人の理由の第1位が「勤務先の両立支援制度の問題や介護休業等を取得しづらい雰囲気等があった」で43.4%でした※1。制度が整っていても、それを使いづらくする言動があれば、離職は防げません。ケアハラ対策は、コンプライアンス対応であると同時に、最も直接的な離職防止策です。
マタハラ・パタハラとの違い
ケアハラ・マタハラ・パタハラは、いずれも通称です。厚生労働省の資料では、次のように整理されています※4。
| 通称 | 厚生労働省の呼び方 | 根拠の法律 |
|---|---|---|
| マタハラ | 妊娠・出産等に関するハラスメント | 男女雇用機会均等法 |
| パタハラ | 育児・介護休業等に関するハラスメント(育児休業などの利用) | 育児・介護休業法 第25条 |
| ケアハラ | 育児・介護休業等に関するハラスメント(介護休業などの利用) | 育児・介護休業法 第25条 |
パタハラとケアハラは、同じ条文の同じ義務です。対象の制度には、介護休業・介護休暇・所定外労働や時間外労働・深夜業の制限・介護のための短時間勤務等の措置が含まれます※4。育児休業を念頭にハラスメント対策を整えている会社でも、方針や研修の資料に介護の制度が入っているかを確かめてください。
介護の仕事の現場でいう「ケアハラ」とは別のものです。介護施設や訪問介護で、利用者やその家族から職員が受けるハラスメントを「ケアハラ」と呼ぶことがあります。この記事のケアハラは、家族の介護をしながら働く人が、職場の上司・同僚から受ける言動を指します。
「不利益取扱いの禁止」との違い
この2つは混同されがちですが、行為の主体が異なります。実務ではどちらも押さえる必要があります。
| 不利益取扱いの禁止 | ハラスメント防止措置 | |
|---|---|---|
| 行為の主体 | 事業主(会社) | 上司・同僚などの言動 |
| 内容 | 介護休業等の申出・取得を理由とする解雇、降格、減給、不利益な配置変更などの禁止 | そうした言動が就業環境を害することのないよう、事業主が体制を整える義務 |
| 求められること | 会社としてその取扱いをしないこと | 方針の明確化、相談体制の整備、事後の適切な対応など |
| 実務での確認 | 人事評価・昇格運用に介護休業取得者への減点要素がないか | 相談窓口があり、管理職が対応方法を理解しているか |
見落とされやすいのは不利益取扱いのほうです。意図的な嫌がらせがなくても、評価制度の運用によって結果的に不利益が生じているケースがあります。たとえば「稼働月数が少ないため今期は評価対象外」「休業期間があるので昇格要件の勤続年数を満たさない」といった運用です。制度そのものを点検してください。個々の上司の言動より発見が難しく、影響が長く続きます。
具体的な言動の例
ケアハラに該当し得る言動の例です。管理職研修ではこの具体例を示すことが最も効果があります。「ハラスメントをしないように」という抽象的な注意では行動は変わりません。研修の組み立て方は管理職向け介護研修で解説しています。
類型 1
制度利用を阻害する言動
「介護休業を取るなら辞めてもらうことになる」「うちの部署で介護休業を取った人はいない」「その程度なら有給で対応してほしい」など、申出を取り下げさせる方向の言動。
類型 2
制度を利用したことへの言動
「あなたが休んだせいで大変だった」と繰り返し言う、復帰後に仕事を与えない、会議や情報共有から外すなど、利用後の扱いに関するもの。
類型 3
介護をしている状況への言動
「親の介護は嫁がやるものだ」「男性なのに介護で休むのか」といった、性別役割や家族観にもとづく発言。
類型 4
キャリアに関する一方的な判断
本人の意向を確認せずに「介護があるなら昇進は無理だろう」「負担の軽い部署に移したほうがいい」と決めてしまう対応。配慮のつもりが機会の剥奪になっている典型例です。
類型4が最も判断を誤りやすいところです。本人を思っての発言であっても、意向を確認しないまま選択肢を狭めれば不利益な取扱いになり得ます。「配慮」と「決めつけ」を分けるのは、本人に聞いたかどうかです。管理職研修ではこの一線を明確に伝えてください。
ケアハラにあたるかの判断|上司は1回でも、同僚は繰り返しで
厚生労働省のパンフレットは、制度の利用をめぐる言動を3つに分け、誰の言動か・何回かで判断の目安を示しています※4。
| 言動の種類 | 上司の場合 | 同僚の場合 |
|---|---|---|
| 不利益を ほのめかす |
解雇や降格などをほのめかせば、1回でも該当 | (上司の言動が対象) |
| 利用をやめる よう言う |
申出の前でも後でも、1回でも該当 | 繰り返し、または継続して言えば該当 |
| 利用したことへの 嫌がらせ |
繰り返し、または継続していれば該当 | 繰り返し、または継続していれば該当 |
本人が「やめてほしい」と伝えたのに続けた場合は、回数を問いません。また、嫌がらせは言葉だけではなく、必要な仕事の情報を与えない、参加していた会議に呼ばない、雑務だけをさせるといった扱いも含まれます。判断の基準は、ふつうの働く人であれば制度の利用をあきらめざるを得ない、あるいは働くうえで見過ごせない支障が出るかどうかです※4。
同じパンフレットには、介護休業を請求すると伝えた人が同僚から「自分なら請求しない。あなたもそうすべき」と言われ、「それでも請求したい」と伝えても同じことを言われて、取得をあきらめざるを得なくなった例が載っています。
ハラスメントにあたらない「業務上の必要性」
業務の分担や安全への配慮から、客観的にみて業務上必要な言動はハラスメントにあたりません。パンフレットでは、業務体制を見直すために上司が休業の期間を確認すること、同僚が自分の休みと調整するために期間の変更を相談することが例に挙がっています。ただし、変更の依頼や相談は、強要しない場合に限られます※4。
線引きの目安:「いつからいつまで休むか」を聞くのは調整です。「休まないでほしい」と求めるのは阻害です。管理職研修では、この2つを並べて示すと伝わります。
ケアハラが起きる原因
悪意から生じることは多くありません。職場で起きる原因は、おおむね次の4つです。
- 制度を知らない。要件を満たした介護休業の申出を、会社は拒めません(育児・介護休業法第12条。労使協定で対象外とした人を除く)※3。上司がこれを知らずに「今は無理」と言えば、それだけで利用の阻害になります。
- 休む人の仕事が、残る人に偏る。同僚の言動の多くは、代わりの体制がないことへの不満から出ます。言動を注意するだけでなく、業務の振り分けを会社が決めることが防止になります。
- 介護を「家の問題」とみる考え方。「親の介護は家族がするもの」「男性が休むのか」といった家族観は、上の類型3の言動につながります。
- 介護は見えにくく、終わりが読めない。育児と違って期間の見通しが立たず、本人も詳しく話さないため、周囲には「なぜそんなに休むのか」と映りやすくなります。
1つ目と2つ目は研修と業務の体制で、3つ目と4つ目は方針の周知と事例の共有で減らせます。次の節の4つの措置と重なります。
事業主が講ずべき4つの措置
ハラスメント防止のために事業主が講ずべき措置は、指針において大きく次の4つに整理されています※2。
方針等の明確化と周知・啓発
ハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確にし、その内容と、行為者に厳正に対処する旨・対処の内容を就業規則等に規定して周知・啓発します。2025年4月改正で義務化された「雇用環境の整備」の選択肢のひとつ(利用促進方針の周知)と重なるため、まとめて実施できます。
相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知します。担当者が適切に対応できるようにしておくことまでが求められます。窓口を設置しただけで担当者が対応方法を知らない状態は、実質的に体制が整っていません。運用の決め方は企業の介護相談窓口をご覧ください。
事後の迅速かつ適切な対応
事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害を受けた労働者への配慮の措置、行為者への措置を適正に行い、再発防止に向けた措置を講じます。
あわせて講ずべき措置
相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨を周知すること。相談したこと等を理由として不利益な取扱いをされない旨を定めて周知・啓発すること。
介護分野では④のプライバシー保護が特に重い意味を持ちます。相談内容に家族の病状や経済状況が含まれるためです。「相談したら部署に知られるのではないか」という懸念があると、そもそも相談が上がってきません。誰にどこまで共有されるのかを、相談する前の時点で明示しておくことが実効性を左右します。
管理職が言いがちなNG対応
悪意なく発せられ、しかも効果的に相談を止めてしまう言葉です。研修ではこの対比を示してください。
| 場面 | 避けたい対応 | 望ましい対応 |
|---|---|---|
| 相談を受けた直後 | 「大変だね」で終える | 「制度と相談先を確認しよう。人事につなぐね」と次の行動を示す |
| 休業の申出 | 「今は繁忙期だから難しい」 | 「取得を前提に、業務の引き継ぎを一緒に考えよう」 |
| 働き方の相談 | 「負担の軽い部署に移ったら」と提案する | 「どういう働き方なら続けられそうか教えてほしい」と意向を聞く |
| 状況の確認 | 病状や家族構成を詳しく聞き出す | 業務への影響と必要な配慮に絞って聞く |
| 復帰後 | 気を遣って重要な業務から外す | 本人と業務量を相談のうえ決める |
相談を受けた際の具体的な進め方は部下から介護の相談を受けたら|管理職がとるべき初動対応で詳しく解説しています。
相談を受けたときの対応手順
- 相談者の意向を最初に確認する。「事実確認をしてほしいのか」「まず話を聞いてほしいだけなのか」で進め方が変わります。本人の意向を確認せずに調査を始めると、職場に伝わることを恐れて相談自体が撤回されることがあります
- 事実関係を迅速かつ正確に確認する。相談者、行為者とされる人、必要に応じて第三者から聴取します
- 被害を受けた労働者への配慮の措置を行う。関係改善の援助、行為者との引き離しなど、状況に応じた対応をとります
- 行為者への措置を適正に行う。就業規則の規定にもとづき対応します
- 再発防止措置を講じる。事実が確認できなかった場合でも、方針の再周知や研修の実施は必要です
- プライバシーを保護し、相談を理由とする不利益取扱いをしない。この2点を相談の入口で本人に伝えてください
制度そのものの点検は就業規則の介護休業規定の見直し、取り組み全体の位置づけは介護離職を防ぐにはをご覧ください。
放置したときの会社のリスクと、労働局の手続き
ケアハラをした人そのものを罰する規定は、育児・介護休業法にはありません。ただし、防止のための措置(第25条)は会社の義務で、守られていないと次のことが起こり得ます※3。
| 起こり得ること | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 助言・指導・勧告 | 厚生労働大臣(都道府県労働局)が報告を求め、助言・指導・勧告をする | 第56条 |
| 公表 | 勧告に従わなかったとき、その旨が公表されることがある | 第56条の2 |
| 過料 | 報告をしない、または偽りの報告をしたとき、20万円以下 | 第66条 |
従業員が辞めることになれば、損失は会社に残ります。会社がハラスメントの事実を知りながら必要な措置を講じず、そのために辞めた人は、雇用保険で倒産や解雇と同じ「特定受給資格者」に当たります※5。被害を受けた従業員から、会社が損害賠償を求められるおそれもあります。
従業員が使える労働局の手続き
ケアハラをめぐる会社との争いについて、従業員は都道府県労働局長に紛争解決の援助(助言・指導・勧告)を求めたり(第52条の4)、調停を申し立てたり(第52条の5)できます。援助を求めたこと、調停を申し立てたこと、社内の相談に協力して事実を話したことを理由に、解雇などの不利益な取扱いをすることは禁じられています(第25条第2項など)※3。
外の手続きに移る前に、社内で解決できることがほとんどです。前の節の対応手順を、相談を受けた早い段階で回してください。
よくあるご質問
ケアハラスメントとは何ですか?
ケアハラスメント(ケアハラ)とは、介護休業や介護休暇など仕事と介護の両立支援制度の利用に関する上司・同僚の言動により、働く人の就業環境が害されることをいいます。育児・介護休業法では、事業主に対してこうした言動が生じないよう相談体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じることが義務づけられています。
不利益取扱いの禁止とハラスメント防止措置はどう違いますか?
行為の主体が異なります。不利益取扱いの禁止は、事業主自身が介護休業等の申出や取得を理由に解雇・降格・減給などの不利益な取扱いをしてはならないというものです。一方ハラスメント防止措置は、上司や同僚による言動が就業環境を害することのないよう、事業主が体制を整える義務です。前者は会社の行為の禁止、後者は職場の言動への対応体制の整備という違いがあります。
「人手が足りないから休まないでほしい」と伝えるのはケアハラにあたりますか?
制度の利用を阻害する言動にあたるおそれがあります。業務分担や体制の相談をすること自体は問題ありませんが、取得をあきらめさせる方向で伝えれば該当し得ます。なお、業務上の必要性にもとづく客観的な事情による言動であってハラスメントに該当しない場合もあるとされていますが、判断は容易ではありません。管理職には、制度利用を前提としたうえで体制を一緒に考える対応を徹底してください。
ケアハラの例は?
大きく4つに分かれます。①制度の利用を阻害する言動、②制度を利用したことへの言動、③介護をしている状況への言動、④キャリアに関する一方的な判断です。「人手が足りないから休まないでほしい」のような具体的な言い回しは、本文の「具体的な言動の例」で挙げています。
出典
- ※1 厚生労働省「令和3年度 仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業報告書」(離職理由「勤務先の両立支援制度の問題や介護休業等を取得しづらい雰囲気等があった」43.4%)
- ※2 厚生労働省「育児・介護休業法の改正について(介護離職防止関係)」
- 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」
- ※3 e-Gov法令検索「育児・介護休業法」(第12条・第25条・第52条の3〜第52条の5・第56条・第56条の2・第66条)
- ※4 厚生労働省・都道府県労働局「事業主が講ずべき ハラスメント対策パンフレット」(2026年7月)(Ⅴ 妊娠・出産等に関するハラスメント、育児・介護休業等に関するハラスメント)
- ※5 ハローワーク「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」
※本記事は2026年10月時点の情報に基づいて作成しています。個別の事案がハラスメントや不利益取扱いに該当するかの判断は、具体的な事情により異なります。判断に迷う場合は、所轄の都道府県労働局雇用環境・均等部(室)または社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。
ケアハラに罰則はありますか?
ケアハラをした人そのものを罰する規定は、育児・介護休業法にはありません。会社には防止措置を講じる義務があり(第25条)、守っていないと厚生労働大臣(都道府県労働局)の助言・指導・勧告の対象になり、勧告に従わなければ公表されることがあります(第56条・第56条の2)。報告をしない、または偽りの報告をした場合は20万円以下の過料です(第66条)。
同僚に一度言われただけでもケアハラになりますか?
同僚の言動は、繰り返し、または継続しているものが該当するとされています。ただし、本人がやめてほしいと伝えたのに続けた場合は、回数を問いません。上司が制度の利用をやめるよう言った場合や、解雇・降格などをほのめかした場合は、1回でも該当します。
業務の調整のために、休業の期間を聞くのもケアハラですか?
当たりません。業務体制を見直すために、いつからいつまで休むかを確認することは、業務上の必要性に基づく言動とされています。自分の休みとの調整のために期間の変更を相談することも同じです。ただし、変更の依頼や相談は、強要しない場合に限られます。
マタハラやパタハラとの違いは?
いずれも通称です。マタハラは男女雇用機会均等法の「妊娠・出産等に関するハラスメント」、パタハラとケアハラは育児・介護休業法の「育児・介護休業等に関するハラスメント」にあたります。パタハラとケアハラは同じ条文(第25条)の義務で、育児の制度の利用か、介護の制度の利用かの違いです。
介護の仕事の現場でいう「ケアハラ」とは違うのですか?
違います。介護施設や訪問介護で、利用者やその家族から職員が受けるハラスメントを「ケアハラ」と呼ぶことがありますが、この記事のケアハラは、家族の介護をしながら働く人が、職場の上司や同僚から受ける言動を指します。
「取得しづらい雰囲気」をなくすために
管理職向け研修・常設相談窓口
ケアハラの多くは、悪意ではなく知識不足から生じます。東急ウェルネスでは、介護の実務を知るケアマネジャー等の有資格者が講師を務める管理職向け研修と、上司を経由せずに相談できる常設窓口をご提供しています。制度を「使える」状態にするところまでご支援します。