企業の介護相談窓口|設置の要件と運用・外部委託の判断
監修 東急ウェルネス株式会社 介護離職防止サポート 責任者 A.T.
介護の相談窓口は、設けるだけでは使われません。制度としては存在しているのに相談が1件も上がらない、という状態は珍しくありません。原因の多くは窓口の質ではなく、誰に相談すると何が起きるのかが従業員に見えていないことにあります。本記事では、法令上の位置づけを確認したうえで、設置時に決めるべき6項目、社内に置くか外部へ委託するかの判断、周知の仕方、記録と個人情報の扱いまでを整理します。
法令上の位置づけ|相談体制の整備は義務の選択肢のひとつ
2025年4月1日施行の育児・介護休業法改正により、事業主には介護離職を防止するための雇用環境の整備が義務づけられました※1。整備の方法として示されているのは次の4つで、このうちいずれか1つ以上を講じることが求められます※1。
- 研修の実施
- 相談体制の整備(相談窓口の設置)
- 自社の労働者の介護休業取得等の事例の収集・提供
- 自社の労働者への介護休業・介護両立支援制度等の利用促進に関する方針の周知
あわせて事業主には、介護休業などの制度の利用に関する言動により就業環境が害されることのないよう、相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備が求められています※1。つまり相談窓口は、両立支援の入口であると同時に、ケアハラスメントの防止措置としての役割も担います。詳しくはケアハラ(ケアハラスメント)とは|言動の具体例と防止措置4つで解説しています。
窓口が使われない3つの理由
窓口を設けたのに相談が来ない場合、原因はおおむね次の3つに整理できます。
相談した先に何が起きるか分からない
「相談すると上司に伝わるのではないか」「評価に影響するのではないか」という懸念があると、従業員は窓口を使いません。誰にどこまで共有されるのかを、窓口の案内文に明記されているかが分岐点になります。
相談する内容がまだ言語化できていない
介護の始まりは「親の様子が最近おかしい」程度の段階です。この時点では何を相談してよいか本人にも分かりません。「制度について相談する窓口」と案内すると、制度の話ができるほど固まっていない人が対象から外れます。
受ける側が介護の実務を知らない
人事担当者が兼任している場合、制度の説明はできても「要介護認定の申請はどこへ」「ケアマネジャーとどう付き合うか」といった問いに答えられないことがあります。一度そうした経験をされた従業員は、次から相談しません。
押さえておきたい考え方:相談件数が少ないことは、社内に介護の課題が少ないことを意味しません。介護をしている従業員の多くは会社に申し出ていないため、人事が把握している人数と実際の人数には開きが生じます。件数が0のときにまず見るべきは、窓口の周知と守秘の説明です。実態の把握には隠れ介護とは|社内アンケートで可視化する設計と質問例が使えます。
設置時に決める6項目
窓口の運用は、次の6項目を決めれば動き始めます。逆に、このどれかが空欄のまま告知すると、相談が来たときに現場が止まります。
誰が受けるか
人事部門の担当者、産業保健スタッフ、外部の専門職のいずれか、またはその組み合わせです。担当者名まで公表するか、部署名にとどめるかも決めます。名前が出ているほうが相談しやすい職場と、そうでない職場があります。
どの経路で受けるか
メール、社内フォーム、電話、対面、オンライン面談。文字で送れる経路を必ず1つ含めてください。「話すほどではないが聞いておきたい」段階の相談は、文字の経路から入ってきます。
いつ受けるか
受付時間と、返信までの目安を決めます。「3営業日以内にご連絡します」と書いてあるかどうかで、送信のためらいが変わります。即時対応が難しくても、目安が示されていれば足ります。
どこまで共有するか
上司へ伝える範囲、伝える前に本人の同意を取るかどうかを決め、案内文に書きます。ここを曖昧にしたまま運用すると、最初の一件で信頼を失います。
どこへつなぐか
制度の適用は人事、健康面は産業医、介護そのものの相談は地域包括支援センターやケアマネジャー※2。窓口が抱え込まず、つなぐ先を持っていることが継続の条件です。
何を残すか
相談記録の様式、保管場所、保管期間、閲覧できる人の範囲を決めます。記録を残す旨は本人に伝えます。詳しくは後述します。
社内に置くか、外部へ委託するか
どちらが正しいというものではなく、相談の入り口として何を優先するかで選びます。
| 社内に設置 | 外部へ委託 | |
|---|---|---|
| 制度の適用判断 | 自社の規程に沿って即断できる | 会社への確認が必要になる |
| 介護実務への回答 | 担当者の知識に左右されやすい | 介護の専門職が直接答えられる |
| 相談のしやすさ | 社内に知られる懸念が残りやすい | 社内と切り離れており、初期段階の相談が出やすい |
| 対応できる時間 | 担当者の勤務時間に依存する | 受付時間を広く設定しやすい |
| 費用 | 人件費に含まれ、追加費用は生じにくい | 委託費が発生する |
| 向いている場面 | 制度の運用相談が中心/人事に介護の知見がある | 初期段階の相談を拾いたい/拠点が分散している |
実務上は両方を置く形が最も機能します。制度の適用は人事、介護そのものの相談は外部の専門職、という切り分けです。従業員から見ると「制度の話をする前に、まず状況を相談できる先がある」状態になり、相談の時期が早まります。
実務上の注意:外部へ委託する場合も、ケアハラスメントに関する相談は自社が対応できる経路を残してください。職場での言動に関する相談は、事業主が講ずべき措置として位置づけられており※1、社外の窓口だけでは会社としての対応につながりません。
相談を受ける人に必要な準備
相談対応は、専門知識より最初の10分の姿勢で結果が変わります。準備しておくとよいのは次の3点です。
- 制度の最低限を手元に置く。介護休業93日・3回まで、介護休暇年5日(対象家族2人以上で10日)、介護休業給付金は原則67%。この3つが答えられれば、初回はしのげます。詳細は介護休暇と介護休業の違い【比較表】給与・給付金・日数をご覧ください
- 結論を急がない。相談者の多くは、退職するか続けるかを決めに来ているわけではありません。状況を整理する場として使われます。その場で解決策を出そうとすると、話せる範囲が狭まります
- つなぐ先を1枚にまとめておく。地域包括支援センターの調べ方※2、社内の制度窓口、産業医、外部相談窓口。相談の最後に「次にどこへ行けばよいか」を渡せる状態にしておきます
管理職が部下から相談を受けた場合の初動は部下から介護の相談を受けたら|管理職がとるべき初動対応で、研修としての組み立ては管理職向け介護研修|カリキュラムの組み方と押さえる4項目で解説しています。
周知の仕方|「あります」だけでは届かない
窓口の存在を社内ポータルに掲載しただけでは、必要なときに思い出してもらえません。接点を複数に分けて置くのが要点です。
40歳到達時の情報提供に組み込む
2025年4月改正で、40歳に達する従業員への介護情報の提供が義務となりました※1。この案内に相談窓口を含めれば、毎年一定数へ確実に届きます。詳しくは40歳到達時の介護情報提供義務とは?何を・いつ・どう配ればよいかをご覧ください。
セミナーの最後に必ず出す
介護セミナーの直後は、相談への心理的な距離が最も近づく時間です。終了時に窓口の入口を示すだけで接触が変わります。企画の進め方は社内向け介護セミナーの企画|対象者別のテーマと進め方で解説しています。
管理職の手元に置く
部下から相談を受けた管理職がその場で渡せるものがあるかどうかで、初動の質が変わります。管理職向けの案内は、従業員向けとは別に用意します。
案内文に守秘の範囲を書く
「ご相談の内容は、ご本人の同意なく上長へ共有することはありません」の一文があるかどうかが、実際の利用に最も効きます。周知の量より、この一文です。
記録と個人情報の扱い
相談記録は、担当者が替わっても対応を引き継ぐために必要です。同時に、取扱いを誤ると窓口そのものが使われなくなる性質の情報でもあります。
- 記録を残すことを本人に伝える。「引き継ぎのため記録を残します」と最初に伝えておけば、後から問題になりません
- 閲覧できる人を限定する。人事部門の全員が見られる状態にはしません。担当者と、その上位者1名程度にとどめます
- 家族の健康状態は必要な範囲にとどめる。介護の相談では、従業員本人ではなくご家族の病名や状態が語られます。制度の適用判断に必要な範囲を超えて記録しないのが原則です
- 保管期間を決めておく。期限を決めずに残し続ける運用は、担当者が替わったときに管理できなくなります
- 統計として使う場合は個人が特定されない形にする。件数や相談内容の傾向は、次の施策を決める材料になります。人数の少ない部署は、部署単位での集計を避けてください
窓口を含めた対策全体の組み立ては介護離職を防ぐには|企業がとるべき対策を体系的に解説で、相談体制の整備に使える助成金は両立支援等助成金「介護離職防止支援コース」でご確認いただけます。
人事・総務ご担当者様用 社内様式 介護相談 受付・記録シート 個別の周知・意向確認を、記録が残る形で実施するための様式です。受付から共有範囲までをA4・1枚にまとめています。印刷してそのままお使いいただけます(別タブで開きます)。 様式を開くよくあるご質問
介護の相談窓口を設置すれば、法改正で義務化された雇用環境の整備は満たされますか?
相談体制の整備(相談窓口の設置)は、2025年4月施行の育児・介護休業法改正で定められた雇用環境の整備の4つの措置のひとつであり、いずれか1つ以上を講じることで義務は満たされます。したがって相談窓口の設置だけでも要件は満たします。ただし窓口は、その存在が従業員に知られていなければ相談が生じません。研修の実施や40歳到達時の情報提供とあわせて周知することで、実際に機能する状態になります。
相談窓口を設けましたが、1件も相談が来ません。何が原因でしょうか。
相談が0件であることは、社内に介護の課題がないことを意味しません。多くの場合、原因は窓口の周知不足か、相談した先に何が起きるかが従業員に見えていないことにあります。案内文に「ご本人の同意なく上長へ共有することはありません」といった守秘の範囲を明記すること、文字で送れる経路を用意すること、介護セミナーや40歳到達時の情報提供の場で繰り返し案内することが有効です。実態の把握には、匿名の社内アンケートも使えます。
社内に窓口を置く場合と、外部に委託する場合ではどちらがよいですか?
目的によって異なります。制度の適用判断を即座に行いたい場合は社内設置が向き、介護そのものの相談を早い段階で拾いたい場合は外部委託が向きます。実務上は、制度の運用相談は人事部門、介護の進め方に関する相談は外部の専門職、と切り分けて両方を置く形が最も機能します。なお外部へ委託する場合も、職場での言動に関するケアハラスメントの相談は、会社としての対応につなげる必要があるため、自社で受けられる経路を残しておいてください。
出典
※本記事は2026年8月時点の情報に基づいて作成しています。制度の詳細や個別の適用については、所轄の労働局またはお近くの社会保険労務士等の専門家にご確認ください。
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