離職防止

親の介護で退職する前に|辞めずに済む制度と判断の順番

監修 東急ウェルネス株式会社 介護離職防止サポート 責任者 A.T.

働き方と収入の見通しを確かめる人のイメージ

親の介護が始まった直後は、続けるか辞めるかを判断するのにいちばん向いていない時期です。入院や退院の前後はもっとも負担が重く、その感覚のまま先を見通すと「続けられない」という結論になりやすいためです。介護・看護を理由に前職を離職した人は年間10.6万人※1。本記事では、いま決めなくていいことを切り分けたうえで、介護休業93日の本当の使い方休業中の収入を数字で示し、判断の順番を整理します。

人事ご担当者様へ:この記事は、辞めることを考えはじめた従業員の方にそのままお渡しいただける内容にしています。制度の一覧ではなく、判断の順番を書いたものです。企業側の対策は介護離職を防ぐには|企業がとるべき対策を体系的に解説にまとめています。

まず、いま決めなくていいことを分ける

親の介護が始まった直後は、決めなければならないことが一度に押し寄せます。そのなかで「仕事を続けるか辞めるか」は、いちばん最後に決めていいことです。

いま決める必要があるのは、次のことです。

  • 今週・来週をどう乗り切るか。誰が病院に付き添うか、誰が連絡を受けるか。
  • 介護保険の申請をするかどうか。認定が出るまで約30日かかるので、迷っているあいだも時間が進みます。
  • 会社に状況を伝えるかどうか。伝えなければ制度は使えません。

一方で、いま決めなくていいこともあります。

  • この先ずっと自分が介護を担うのかどうか
  • 施設に入れるのか、在宅で続けるのか
  • 仕事を辞めるかどうか

この3つは、いずれも体制が決まってからでないと判断材料がそろわないものです。介護保険のサービスが入り、ケアマネジャーが決まり、1か月ほど回してみて、はじめて「続けられるかどうか」が見えます。いちばん負担が重い最初の数週間の感覚で決めてしまうと、あとから選択肢が戻ってこなくなります。

介護を理由に辞める人は、年間10.6万人います

介護・看護を理由に前職を離職した人は、1年間で10.6万人です※1。決してめずらしい判断ではありません。

ただし、この数字を見ていただきたい理由は「よくあることだから安心してください」ではありません。これだけの人数が辞めているのに、制度が使われていないという点にあります。

辞める判断が早い時期に集中しやすいのは、次の3つが重なるためです。

理由 1

制度を知らない

介護休業・介護休暇・短時間勤務。名前は聞いたことがあっても、自分が使えるかどうかまでは知られていません。

理由 2

言い出しにくい

迷惑をかける、評価に響く。そう考えて相談しないまま、限界まで一人で抱えてしまいます。

理由 3

いちばん大変な時期に判断する

入院や退院の直後は、介護がもっとも重い時期です。その感覚のまま先を見通すと、続けられないという結論になりやすくなります。

逆にいえば、この3つを外せば判断は変わり得ます。以下は、そのための材料です。

介護休業93日は「自分が介護する93日」ではない

もっとも誤解されているのがここです。

介護休業は、対象家族1人につき通算93日まで、3回に分けて取得できます。この93日を「自分が親の面倒をみる期間」と考えると、3か月で足りるはずがないという結論になり、だから辞めるしかない、という話につながります。

しかし、この制度が想定しているのはそこではありません。93日は、自分が介護から手を離せる体制を作るための期間です。

1

要介護認定を申請し、結果を待つ

申請から利用開始まで、目安として約30日かかります。この間に主治医意見書の作成や訪問調査があります。

2

ケアマネジャーを決め、ケアプランを作る

どのサービスを週に何回入れるかを組み立てます。ここが体制づくりの中心です。

3

1か月ほど回してみて、調整する

実際に使ってみると、足りないところと過剰なところが見えます。ケアプランは変更できます。

この3つを終えるのに、おおむね3か月です。93日という日数は、そこから逆算されています。93日で介護が終わるわけではなく、93日で「自分がいなくても回る形」を作る、という設計です。

要介護認定の手順は要介護認定の流れ|申請から利用開始まで約30日・6ステップに、ケアマネジャーの決め方はケアマネジャーとは|役割と、従業員に案内するときの要点にまとめています。

休業した3か月の収入は、いくらになるか

「休んだら収入がゼロになる」という思い込みが、辞める判断を後押しします。実際には、雇用保険から介護休業給付金が支給されます。

  辞めた場合 介護休業を使った場合
休んでいる3か月の収入 0円 賃金のおよそ67%
3か月後の収入 0円(再就職するまで) 元の給与に戻る
健康保険・厚生年金 国民健康保険・国民年金に切り替え。全額が自己負担 会社の保険が継続(本人負担分の支払いは必要)

月給30万円の方であれば、休業中の給付はおおむね月20万円ほどになります。3か月で約60万円です。金額には上限があり、1か月あたりの支給上限は366,222円、下限は96,090円です※2。この額は毎年8月1日に改定されます。

比べていただきたいのは、3か月分の差ではありません。3か月後に給与が戻るか、戻らないかです。ここが、辞めるという判断でいちばん大きく変わる部分です。

手続きの注意:介護休業給付金は、会社を経由してハローワークに申請するのが一般的です。休業に入る前に、勤務先の人事・総務にお伝えください。申請の実務は介護休業給付金の必要書類と支給申請書の記入例|会社の実務にまとめています。なお介護休業中も社会保険料の本人負担は発生します。育児休業のような免除はありません(介護休業中の社会保険料|免除されない理由と徴収の実務)。

休業のあとに続く制度がある

介護休業は、体制を作るための一時的な制度です。体制ができたあとに続けて使えるものが、別にあります。

  • 介護休暇。年5日(対象家族が2人以上なら年10日)まで、1日単位でも時間単位でも取れます。通院の付き添いなど、こまめに抜けたいときに使います。
  • 短時間勤務等の措置。所定労働時間の短縮のほか、フレックスタイム、時差出勤、介護費用の助成のいずれかを、会社は用意することになっています。
  • 所定外労働の制限(残業の免除)。申し出れば、残業を免除してもらえます。
  • 時間外労働・深夜業の制限。時間外労働は月24時間・年150時間まで、深夜業は免除を求められます。

これらは介護が続くかぎり使えるもので、93日という上限はありません。日数や申出方法の違いは介護休暇と介護休業の違い【比較表】給与・給付金・日数に、短時間勤務の中身は介護の短時間勤務|所定労働時間の短縮等の措置と4つの選択肢にまとめています。制度の全体像は仕事と介護の両立支援制度の一覧|法定7制度と事業主の義務をご覧ください。

会社にどう切り出すか

制度は、申し出なければ使えません。そして多くの方が、ここで止まります。

伝える内容は、次の3点で足ります。

  • 家族の介護が必要になったこと(病名や詳しい病状まで話す必要はありません)
  • 当面どのような配慮が必要になりそうか(急な休み、残業の免除など)
  • 使える制度について相談したいということ

2025年4月の法改正により、従業員から介護に直面した旨の申出があった場合、会社は制度の内容を個別に説明し、利用の意向を確認することが義務づけられました。つまり、こちらから制度名を挙げて交渉する必要はありません。「介護が必要になった」と伝えれば、説明する側の義務が発生します。

また、介護休業などの申出や取得を理由に、解雇・降格・減給といった不利益な取扱いをすることは法律で禁じられています。相談したことで評価が下がる、という扱いは認められていません。

切り出し方の詳細は親の介護が始まったら|最初にすべきこと5ステップのステップ1にまとめています。

それでも辞める判断をするなら、先に確認すること

制度を確認したうえで、それでも続けられないという結論になることはあります。その判断自体を否定するつもりはありません。ただ、辞める前に確認しておくと後で効いてくることが3つあります。

確認 1

雇用保険の離職理由

家族の介護を理由とする離職は、自己都合であっても給付制限がかからない扱いになる場合があります。離職票の理由の書かれ方で変わるので、ハローワークにご確認ください。

確認 2

健康保険をどうするか

退職後は、任意継続、国民健康保険、家族の扶養に入るという選択肢があります。保険料が大きく変わるので、退職前に試算してください。

確認 3

復職できる制度がないか

会社によっては、介護を理由に退職した人の再雇用制度を設けている場合があります。就業規則を確認するか、人事にお尋ねください。

いずれも、辞めたあとでは選び直せないものです。

人事の方へ|この記事を従業員に渡すとき

「辞めます」という申し出を受けたとき、制度の一覧を渡しても届かないことがあります。すでに結論を出したあとだからです。

実務的には、次の順番が有効です。

1

結論を保留してもらう

退職の意思を撤回させるのではなく、「体制ができるまで判断を待てないか」とお伝えします。介護休業はそのための期間です。

2

収入の見通しを数字で示す

「休むと収入がゼロになる」という思い込みは、給付金の額を具体的に示せば解けます。上の試算表がそのまま使えます。

3

93日の意味を伝える

自分が介護する期間ではなく、体制を作る期間であること。ここが伝わるかどうかで、判断が変わります。

申し出を受けた時点での初動は部下から介護の相談を受けたら|管理職がとるべき初動対応に、「介護は義務だから辞めます」と言われた場合の答え方は親の介護の義務はどこまで|しないとどうなるのかにまとめています。

よくあるご質問

介護休業の93日で、介護は終わりませんが大丈夫でしょうか?

介護休業は、介護そのものを終わらせるための期間ではありません。要介護認定を申請して結果を待ち、ケアマネジャーを決めてケアプランを作り、1か月ほど回して調整する。この体制づくりに、おおむね3か月かかります。93日はそこから逆算された日数です。体制ができたあとは、介護休暇や短時間勤務など、日数の上限がない制度を使いながら働き続けることになります。

介護休業中の収入はどのくらいになりますか?

雇用保険から介護休業給付金として、賃金のおよそ67%が支給されます。1か月あたりの支給上限は366,222円、下限は96,090円で、この額は毎年8月1日に改定されます。月給30万円の方であれば、おおむね月20万円ほどが目安です。なお介護休業中も健康保険・厚生年金の本人負担分は発生します。育児休業のような保険料の免除はありません。

会社に相談すると、評価が下がりませんか?

介護休業などの申出や取得を理由に、解雇・降格・減給といった不利益な取扱いをすることは法律で禁じられています。また2025年4月の法改正により、従業員から介護に直面した旨の申出があった場合、会社は制度の内容を個別に説明し、利用の意向を確認することが義務づけられました。制度名を挙げて交渉する必要はなく、「介護が必要になった」とお伝えいただければ、説明する側の義務が生じます。

出典

※本記事は2026年9月時点の情報に基づいて作成しています。介護休業給付金の支給要件や上限額は改定される場合があります。掲載した試算は一定の前提を置いた目安で、実際の金額は賃金額や加入状況により異なります。個別の適用については、勤務先の人事担当部門または所轄のハローワークにご確認ください。

辞める前に、話せる相手を

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