離職防止

隠れ介護とは|社内アンケートで可視化する設計と質問例

監修 東急ウェルネス株式会社 介護離職防止サポート 責任者 A.T.

スマートフォンで従業員アンケートに回答するイメージ

「うちの会社で介護をしている従業員は数名です」——人事部でそう認識されている企業でも、実際に匿名で聞いてみると、その何倍もの人数が挙がってくることがあります。介護は会社に申し出ないまま抱え込まれる性質があり、人事の把握と実態には大きな開きが生まれます。この開きを埋めるのが従業員アンケートです。働きながら介護を担うビジネスケアラーは2030年に約318万人と推計されており、自社にも相応の人数がいると考えるのが自然です。本記事では、そのまま使える設問例とあわせて、設計の考え方・回収率を上げる工夫・結果の読み方をご説明します。

なぜ実態把握から始めるのか

「隠れ介護」とは、家族の介護をしているにもかかわらず、その事実を勤務先に伝えていない状態を指す言い方です。法令上の用語ではなく、人事の実務で使われる呼び方ですが、この層の人数を掴めているかどうかが、以降の施策の精度を決めます。隠れ介護が問題になるのは、会社から見えていないぶん、支援が届かないまま限界に達するためです。

介護離職の防止策は、制度整備・周知・相談体制など複数の打ち手がありますが、最初に着手すべきは実態把握です。隠れ介護の規模が分からないまま制度を増やしても、届く先が見えません。理由は3つあります。

1

介護は申し出られないまま進行する

育児と違い、介護は本人が会社に伝えないまま続けられます。家族の病状というプライベートな情報であること、期間の見通しが立たないこと、評価への影響を懸念することが理由です。人事が把握できるのは、多くの場合「退職を申し出た時点」です。

2

数字がないと社内の合意が取れない

介護離職対策には予算と工数が要ります。「全国で年間約10.6万人が離職している」という統計だけでは、経営層にとって他社の話にとどまります。「自社に現在◯名、5年以内に直面しそうな人が◯名」という数字が出た瞬間に、議論の質が変わります。

3

アンケート自体が周知になる

見落とされがちですが、これが大きい効果です。設問を読むだけで「会社に介護の制度があるらしい」「相談してよいことなのだ」というメッセージが全従業員に届きます。実態把握と周知を同時に果たせる施策は、他にあまりありません。

着手のハードルは低い施策です。アンケートは規程改定のような法務確認も、セミナーのような講師手配も要りません。社内のフォームツールで作成でき、費用もほぼかかりません。それでいて、以降のすべての施策の根拠になります。最初の一歩として最も適した打ち手です。

アンケートで掴むべき4つのこと

設問を作り始める前に、「何を知りたいのか」を確定させます。設問が多すぎると回収率が落ちるため、目的を絞ることが重要です。掴むべきは次の4つです。

把握項目 1

現在介護をしている人数

最も基本の数字です。あわせて「介護の状況」(同居・別居・遠距離)と「1週間あたりの時間」を聞くと、負担の重さがわかります。

把握項目 2

今後直面しそうな人数

現在の人数より重要な指標です。「親が高齢で、5年以内に介護が必要になりそう」という層は、現在介護中の人数を大きく上回るのが通例です。施策の規模を決める根拠になります。

把握項目 3

制度の認知度

介護休業・介護休暇を「知っているか」「使えると思うか」を分けて聞きます。この2つの差が、そのまま「制度はあるが使われない」の大きさを表します。

把握項目 4

求めている支援

何に困っているか、どんな支援があれば助かるかを聞きます。選択肢を用意しつつ自由記述欄も設けると、想定外の課題が見つかります。

設計の5原則

介護のアンケートには、他のテーマにはない配慮が必要です。設計を誤ると回答が集まらないだけでなく、従業員に不信感を与えかねません。

  • 匿名にする。記名式は回答率も正直さも下がります。所属部署も、大きな区分(本社/支社など)にとどめてください。少人数の部署名まで聞くと個人が特定できてしまい、匿名の意味がなくなります
  • 全従業員に配る。年齢で絞ると、祖父母を介護する若手や配偶者の親を介護している従業員が漏れます。また「自分は関係ない」という認識を社内に広げてしまいます
  • 設問は10〜15問まで。それ以上は途中離脱が増えます。必須回答は最小限にし、答えたくない設問は飛ばせるようにします
  • 目的を冒頭で明示する。「支援制度の検討のために実施するものであり、人事評価には一切用いない」と明記します。これがないと、身構えた回答が返ってきます
  • 回答から支援への導線を置く。末尾に企業の介護相談窓口の案内を任意で載せます。アンケートをきっかけに相談が始まるケースは実際に多くあります

やってはいけない設計:介護の有無を人事データと紐づけて管理しようとすることです。目的が「困っている個人を特定して手当てする」に変わった瞬間、従業員は正直に答えなくなります。アンケートの目的は個人の特定ではなく、施策を決めるための全体像の把握です。この線を越えないことが、次回以降も回答が集まる条件になります。

そのまま使える設問例(全12問)

下記をそのまま社内のフォームツールに転記して使えます。自社の状況に合わせて、選択肢の文言だけ調整してください。

【冒頭に置く説明文】
本アンケートは、仕事と介護の両立を支援する制度を検討するために実施するものです。回答は匿名で、個人が特定されることはありません。人事評価には一切用いません。現在介護をされていない方も、今後のためにぜひご回答ください。所要時間は約3分です。

属性(2問)

現在の状況(4問)

仕事への影響(2問)

制度の認知(2問)

求める支援(2問)

Q9とQ10がこのアンケートの要です。Q9で「知っている」と答えた人が多いのにQ10で「利用できそう」が少ない場合、課題は周知ではなく組織風土にあります。この場合、パンフレットを配り直しても効果は出ません。管理職向け介護研修と、上司を経由しない相談窓口の設置が必要になります。逆にQ9が低ければ、まず周知の量を増やすことが先決です。打ち手が正反対になるため、この2問は必ずセットで入れてください。

回収率を上げる4つの工夫

介護のアンケートは、テーマの性質上どうしても回答をためらわれがちです。次の工夫で回収率が変わります。

1

他の調査に相乗りさせない

エンゲージメント調査などに数問だけ混ぜる方法は、工数は減りますが回答の質が落ちます。介護の設問だけ空欄で提出されることも多く、単独で実施したほうが結果的に有効回答は増えます。

2

経営層のメッセージを添える

人事部名義よりも、役員名で「働き続けられる環境をつくるために実施します」と一言添えるほうが回答率が上がります。制度づくりへの本気度が伝わるためです。

3

スマートフォンで答えられるようにする

介護をしている従業員ほど、業務時間中にゆっくり回答する余裕がありません。移動中や自宅で答えられる形式にしてください。所要時間の目安を明記することも効果があります。

4

結果を必ずフィードバックする

これが次回の回収率を決めます。集計結果と「この結果を受けて何をするか」を社内に公開してください。回答が施策につながった実感があれば、次のアンケートにも協力が得られます。

結果の読み方と次のアクション

集計が終わったら、次の観点で読み解きます。

結果のパターン 読み取れること 優先すべき打ち手
制度の認知が低い そもそも情報が届いていない 周知の量を増やす。40歳到達時の情報提供、社内セミナー、説明資料の配布
認知は高いが「使えると思わない」 課題は組織風土。前例がない、言い出しづらい 管理職研修と、上司を経由しない相談窓口の設置
「今後直面しそう」が多い 数年内に離職リスクが顕在化する 直面前の予防的な情報提供。介護保険の使い方のセミナー
仕事への影響が出ている人が多い すでに限界に近い従業員がいる 個別相談の機会を早急に用意する。柔軟な勤務制度の検討
自由記述に具体的な困りごとが並ぶ 相談したい意思はある 相談窓口の設置と告知。記述内容をセミナーのテーマに反映

結果が「少なかった」場合の解釈に注意してください。介護をしている従業員が想定より少なく出ることがありますが、これは「課題がない」証拠にはなりません。回答率が低い、匿名性が信用されていない、設問が答えづらいといった要因が考えられます。判断材料には「今後直面しそう」の人数を使ってください。こちらは答えることへの心理的な負担が小さく、実態に近い数字が出ます。

アンケートの次にやること

結果が出たら、対策の全体像の中で優先順位を決めます。取り組みの流れは介護離職を防ぐには|企業がとるべき対策を体系的に解説で整理しています。制度面の点検が必要なら就業規則の介護休業規定の見直し、管理職の対応力が課題なら部下から介護の相談を受けたら|管理職がとるべき初動対応をご覧ください。

よくあるご質問

介護に関する従業員アンケートは匿名にすべきですか?

匿名を推奨します。介護は家族の病状という極めてプライベートな情報を含むため、記名式にすると回答率が下がり、正直な回答も得にくくなります。個別の支援につなげたい場合は、匿名アンケートの末尾に「個別に相談したい方はこちらの窓口へ」という任意の導線を置く形が現実的です。

アンケートは全従業員に配るべきですか、40代以上に限るべきですか?

全従業員を対象にしてください。年齢で絞ると、祖父母の介護を担う若手や、配偶者の親を介護している従業員が漏れます。また対象を限定すると「自分は関係ない」という認識を社内に広げてしまい、周知の機会としての効果も失われます。

アンケートで介護をしている従業員が少なかった場合、対策は不要ですか?

不要とは判断できません。回答率が低い、あるいは匿名性への不安から正直に答えられていない可能性があります。また「現在は介護をしていないが、5年以内に直面しそう」と回答した人数のほうが、施策の必要性を示す指標として重要です。現在の人数だけで判断しないでください。

出典

※本記事は2026年8月時点の情報に基づいて作成しています。設問例は一般的な設計例であり、実施にあたっては自社の状況や個人情報の取扱方針に合わせてご調整ください。

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