調査・データ

ビジネスケアラーとは|2030年318万人・企業の備え

監修 東急ウェルネス株式会社 介護離職防止サポート 責任者 A.T.

働きながら家族の介護に向き合うビジネスケアラーのイメージ

ビジネスケアラーとは、仕事を続けながら家族などの介護を担う人のことです。経済産業省が2024年3月に公表した「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」で用いられた言葉で、2030年には約318万人、労働力人口の21人に1人に達すると推計されています※1

この言葉が注目されている背景には、介護が一部の人だけの課題ではなく、多くの働く人にとって身近なテーマになりつつある現状があります。企業に求められるのは、「離職の危険がある人」だけを見るのではなく、仕事と介護の両立に向き合うすべての従業員を支える視点です。この記事では、ビジネスケアラーの実態と、企業が今から備えておきたいポイントをわかりやすく解説します。

ビジネスケアラーとは|定義と規模

ビジネスケアラーとは、働きながら家族等の介護に従事する人を指します。ワーキングケアラーとも呼ばれますが、経済産業省のガイドラインでは「ビジネスケアラー」の用語が主に使われています※1

同ガイドラインでは、就業構造基本調査における有業者のうち「仕事が主な者」をビジネスケアラーと定義しています。この定義にもとづく推計は次のとおりです※1

2020年 2030年(推計)
家族介護者の合計 678万人 833万人
うちビジネスケアラー 262万人 318万人(約4割)
介護離職者 7万人 11万人
  • 労働力人口でみると、2030年時点で21人に1人がビジネスケアラーになる見込みです※1
  • この318万人は、仕事を主として働いている人に限った数字です。働いてはいるものの家事や学業などを主としている人まで含めると、2030年時点で438万人と推計されています※1
  • 介護者が家族介護にかける時間は男女ともに1日2時間余りで、現役世代の可処分時間を大きく減少させています※1

この推計で最も重要なのは、318万人と11万人の対比です。2030年のビジネスケアラー318万人に対し、介護離職者は11万人。離職する人1人の背後に、辞めずに働き続けている介護者が約29人いることになります。人事が把握しやすいのは離職した人ですが、実際にはその何倍もの従業員が、組織の中で仕事と介護の両立に向き合っています。

似た言葉との違い|ワーキングケアラー・ケアラー・ヤングケアラー

介護を担う人を指す言葉はいくつもあり、社内資料で混ざりがちです。指している範囲が違うだけで、対立する概念ではありません。企業として押さえておきたい違いを整理します。

1

ワーキングケアラー|ほぼ同じ意味

働きながら介護を担う人を指す言葉で、ビジネスケアラーとほぼ同義です。経済産業省のガイドラインでは「ビジネスケアラー」の用語が主に使われており※1、行政や経営向けの資料ではこちらを目にする機会が多くなります。社内で用語をそろえるなら、出典に合わせておくのが無難です。

2

ケアラー|就労の有無を問わない広い言葉

家族などの心身の状況に対して、無償で世話や支援を行う人の総称です。働いているかどうかを問いません。ビジネスケアラーは、このケアラーのうち仕事を主として働いている層にあたります。自治体の条例や支援施策では「ケアラー」が使われることがあります。

3

ヤングケアラー|こども・若者のケアラー

本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている、こども・若者を指します。2024年の子ども・若者育成支援推進法の改正で、国・地方公共団体等が支援に努めるべき対象として法律に明記されました※3こども期(18歳未満)に加え、おおむね30歳未満の若者期を中心とし、状況等に応じて40歳未満の者も対象となり得るとされています※3若手社員がこれに該当する場合があります。介護=40代以上という前提で制度を設計すると、この層が抜け落ちます。

4

ダブルケア|育児と介護が重なる状態

子育てと介護を同時に担っている状態を指します。晩婚化・晩産化により、子どもがまだ小さいうちに親の介護が始まる例が増えています。ビジネスケアラーの一部が、ここに重なります。育児休業と介護の制度を別々の窓口で運用している企業では、片方の相談だけを受けて全体像を掴み損ねることがあります。

押さえておきたい考え方:実務では、用語の使い分けそのものより「会社に申し出ていない人がいる前提で設計する」ことのほうが効きます。社内で介護をしている従業員のうち、会社に伝えていない層を指して「隠れ介護」と呼ぶことがあります。把握の方法は隠れ介護とは|社内アンケートで可視化する設計と質問例で解説しています。

なぜ増えるのか|3つの構造変化

ビジネスケアラーの増加は、高齢化だけが理由ではありません。ガイドラインでは、次の3つの構造変化が背景として挙げられています※1

1

共働き世帯の広がり

共働き世帯と専業主婦世帯は1992年に914万世帯と903万世帯で逆転※12024年には共働き世帯1,300万世帯、専業主婦世帯508万世帯と倍以上の開きになりました※2。家族の誰かが介護を担えることを前提にはできなくなっています。

2

変わる介護の担い手

主な介護者の続柄をみると、子の配偶者は2004年の21.8%から2022年には6.3%まで減少し、かわりに子が24.8%から26.4%へ増加しました。つまり働いている本人が直接介護を担う構造に変わったということです。ガイドラインはこれを「働く誰しもが家族介護を行うことになり得る」と表現しています。

3

企業における人材不足の慢性化

生産年齢人口の減少により、2012年以降は一貫して雇用人員の充足度がマイナスの状況です。企業規模が小さくなるほど人材不足は深刻で、中小企業は代替人員の獲得が困難なため、社員の離職や休職が事業に与える影響も大きくなります。

この3つが同時に進むことの意味:介護を担う人が「家族の誰かが担うもの」から「働いている本人」に移り、しかもその本人の代わりがいない、という状態です。従来は個人の家庭の問題として処理できた事柄が、そのまま事業継続の問題になるということを意味します。

経済損失の8割は離職以外から生じる

ガイドラインは、仕事と介護の両立困難による経済損失を2030年時点で約9兆1,792億円と試算しています。その内訳が、ビジネスケアラーという概念の重要性を示しています※1

損失の種類 金額 割合
両立困難による労働生産性損失 7兆9,163億円 約86%
介護離職による労働損失 1兆178億円 約11%
介護離職による育成費用損失 1,289億円 約1%
介護離職による代替人員採用コスト 1,162億円 約1%

この労働生産性の低下率は、経済産業省の委託調査(介護をしながら働いている方へのWEBアンケート、n=2,100)にもとづき約27.5%と算出されています※1。企業単位での試算方法は介護離職のコストを試算するで詳しく解説しています。

従来の介護離職対策との違い

ビジネスケアラーという視点を持つと、施策の設計が変わります。

従来の介護離職対策 ビジネスケアラー支援
対象 辞めそうな従業員 働きながら介護をしている従業員全体
きっかけ 本人からの申出・退職の相談 申出の有無にかかわらず先回りして支援
主な手段 休業制度の案内、引き止め 情報提供、相談体制、柔軟な働き方
測る指標 介護離職者数 制度の認知度、相談件数、両立できている実感
捉え方 福利厚生・個人の事情への配慮 人材確保と生産性維持の経営課題

指標の置き方が最も実務に響きます。介護離職者数は件数が少なく、施策の効果を短期で測るには向きません。数字が0だった年に「対策は不要」と判断してしまうリスクもあります。制度の認知度と相談件数を主指標に置いてください。相談件数の増加は問題の増加ではなく、抱え込みが減ったことを意味します。

企業が備えるべき3つのこと

備え 1

実態を数字で把握する

自社に何人のビジネスケアラーがいるかを把握しないまま施策は設計できません。匿名アンケートで「現在介護をしている」「5年以内に直面しそう」の人数を掴みます。アンケートの設計方法はこちら

備え 2

直面する前に情報を届ける

介護は突発的に始まり、直面してから調べる余裕はありません。介護保険の使い方を事前に伝えておくことが、生産性の低下を最も抑えます。2025年4月改正で義務化された40歳到達時の情報提供はこの目的に沿った措置です。

備え 3

申し出なくても届く支援にする

ビジネスケアラーの多くは会社に申し出ていません。申出を起点にした支援だけでは大半に届きません。全員向けのセミナー、常設の相談窓口、管理職の対応力向上といった網をかける施策が必要です。

経営層への説明

人材確保の問題として語る

ビジネスケアラーが集中するのは40〜50代、多くの企業で中核を担う層です。人材不足が慢性化するなかで、この層の生産性低下と離職は代替が効きません。福利厚生だけではなく人材戦略の議題として扱うことが、予算確保の前提になります。

具体的な進め方は介護離職を防ぐにはで、5つの対策と3ステップに整理しています。

ビジネスケアラーが抱える3つの困りごと

支援を設計するときは、何に困っているかを取り違えないことが要点です。制度が足りないから困っている、とは限りません。

1

時間が削られる

介護者が家族介護にかける時間は男女ともに1日2時間余りで、現役世代の可処分時間を大きく減らしています※1。休業を取るほどではないが毎日少しずつ削られる、という形で表れるため、制度の利用実績には現れません。柔軟な働き方のほうが効く場面です。

2

介護保険の使い方が分からない

離職理由の上位に「介護保険サービス等が利用できなかった・利用方法がわからなかった」が30.2%で挙がっています※4。これは会社の制度ではなく公的サービスの情報の問題で、社内制度を増やしても解消しません。要介護認定の流れ|申請から利用開始まで約30日・6ステップのような情報を、直面する前に届けておくことが手当てになります。

3

言い出しにくい

介護は、申し出た時点で働き方や評価に影響するのではないかという懸念が伴います。実際、両立支援制度の利用に関する言動により就業環境が害されることは、事業主が防止措置を講ずべき事項として定められています※5。詳しくはケアハラ(ケアハラスメント)とは|言動の具体例と防止措置4つをご覧ください。言い出せる状態をつくることは、制度整備と同じだけ重要です。

自社に何人いるか|見積もりの考え方

施策を通すには、まず自社の規模感が要ります。概算と実測の二段構えで進めるのが現実的です。

  • 概算:経済産業省の試算では、2030年時点のビジネスケアラー発生率を4.6%(生産年齢人口6,875万人に対し318万人)としています※1。従業員数にこの率を掛ければ目安が出ます。ただし年齢構成によって実態は大きくぶれます。40〜50代が多い組織では、この率より高く出ると考えてください
  • 実測:正確に掴むには匿名の従業員アンケートが最も確実です。「現在介護をしている」「5年以内に直面しそう」の2つを聞くだけでも、施策の優先順位が決められます

金額に換算して経営層に示す方法は介護離職のコストを試算する|1人辞めるといくら失われるかで、アンケートの設問と実施の進め方は隠れ介護とは|社内アンケートで可視化する設計と質問例で解説しています。

よくあるご質問

ビジネスケアラーとワーキングケアラーは違うものですか?

ほぼ同じ意味です。どちらも働きながら家族などの介護を担う人を指します。経済産業省が2024年3月に公表した「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」では「ビジネスケアラー」の用語が主に使われているため、行政や経営層向けの資料ではこちらを目にする機会が多くなります。社内資料の用語をそろえる場合は、引用する出典に合わせておくと混乱がありません。なお「ケアラー」は就労の有無を問わない広い言葉で、ビジネスケアラーはそのうち仕事を主として働いている層を指します。

自社にビジネスケアラーが何人いるか、どう把握すればよいですか?

概算と実測の二段構えをおすすめします。概算は、経済産業省の試算にある2030年時点の発生率4.6%(生産年齢人口6,875万人に対し318万人)を従業員数に掛ける方法です。ただし年齢構成によって実態は大きくぶれるため、40〜50代が多い組織ではこの率より高く出ると考えてください。正確に掴むには匿名の従業員アンケートが最も確実で、「現在介護をしている」「5年以内に直面しそう」の2問だけでも施策の優先順位を決める材料になります。

ビジネスケアラーは2030年にどのくらい増えますか?

経済産業省の推計では、2030年には家族を介護する833万人のうち約4割にあたる約318万人がビジネスケアラーになると予測されています。労働力人口でみると21人に1人という規模です。なお、この318万人は仕事を主として働いている人に限った数字で、働いてはいるものの家事や学業などを主としている人まで含めると、2030年時点で438万人と推計されています。

介護離職対策とビジネスケアラー支援は何が違うのですか?

対象とする範囲が異なります。介護離職対策は辞めそうな従業員への対応が中心ですが、ビジネスケアラー支援は辞めずに働き続けている介護者全体を対象とします。経済産業省の試算では、2030年の経済損失9兆1,792億円のうち約8割は離職に至っていない従業員の生産性低下によるものです。離職者数だけを見ていると、損失の大部分を見落とすことになります。

ビジネスケアラーの課題は?

制度が足りないことよりも、日常が少しずつ削られることのほうが大きな課題です。本文では3つに整理しています。①時間が削られる(家族介護にかける時間は男女とも1日あたり2時間余り)、②公的サービスの情報にたどり着けない、③職場で言い出しにくい。支援を設計するときは、何に困っているかを取り違えないことが要点になります。

出典

※本記事は2026年8月時点の情報に基づいて作成しています。掲載した将来推計値は一定の前提を置いた試算であり、実測値ではありません。最新の数値は各調査の公表ページをご確認ください。

申し出ていない従業員にも届く支援を

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ビジネスケアラーの多くは会社に申し出ていません。申出を起点にした支援だけでは大半に届かないため、全員向けのセミナーと常設の相談窓口が有効です。東急ウェルネスでは、実態把握から情報提供、ケアマネジャー等による相談体制の構築までを一貫してご支援しています。

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